遺伝のゲーム
ドライブ中、前の車のナンバープレートの4つの数字を使って10を作るというあそびを教えてくれたのは、父だった。
+、−、×、÷、どれかと数字を組み合わせて、合計で10にする。
例えば、
《4 6 1 7》というナンバープレートだったら、
6-4+1+7=10 というふうに。
車線の多い高速なんかは、周りに車が多くなかなか楽しくあそべる。目に入るナンバープレートがある限りひたすらこなし、段々慣れてくるとパッとみて10が作れるかどうかも判断できるようになってくる。
「5と8と9がある時は楽なんだ」
ある時、このゲームのコツを教えてくれたことがあった父。5が1つあれば、残りの3つで2か5を、8であれば2を、9であれば1を作ることをすれば簡単なのだという。たしかに、それを意識し始めてからは、早くできるようになった気もする。
大人になった今でも、ふとやってしまうこのゲーム。パパッとできる時もあれば、じっくり考え込んでもわからないこともある。特に勝ち負けとか、失敗成功とか、そういう次元でなくて、自分の中のたのしみのようなゲームになった。
よくよく考えてみれば、特に意味のない、無駄な、遊びである。これが元で数学が好きになったわけでも、計算が早くなったわけでもない。
だけど、父がわたしに遺してくれたのは自分の中に生きる遺伝子と、このゲームくらいなのである(それは言い過ぎだけど)。
ゲームと賭け事と煙草と野球が好きだった父。わたしには、どれもフィットしなかったのに。きっと自分の中に残る、小さな父のカケラなのだ。全く意味がなくても、大事にしようと思う。